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患者様インタビュー

Vol.350代で手術に踏み切った患者様の事例|患者様のインタビュー 第2回(全2回)2023.06

今回は、10代で特発性側弯症の診断を受けながらも、その当時は症状が軽かったために特に治療を行うこともなく年齢を重ね、40代で症状悪化、50代で手術に踏み切ったOさん(女性)のエピソードを紹介します。成長期が終わったからと言って、必ずしも脊柱変形の進行が止まるとは限りません。Oさんの場合はまさに自覚症状もないまま密かに変形が進んでいたというケースでした。Oさんは53歳で手術を受け、現在は支障のない日常生活を送っています。それでもやはり「若いうちに、もっとしっかり側弯症に向き合っていれば」と後悔することがあると言います。「自分と同じように側弯症の治療や手術に思い悩む人のために、少しでも参考になるのならば」と、今回インタビューに応じてくれました。

後編では、側弯症の悪化と同時に健康診断で乳がんであることが発覚したOさんが側弯症の手術を受け入れるまでの経緯と、退院後の生活を振り返ります。そして日常を取り戻した現在、手術に対する当事者ならではの率直な思いを語ってくれました。

歩行困難から53歳でついに手術を決意

── D病院で診てもらってから、側弯症の手術を受けることに対して迷いはありませんでしたか?

Oさん:少し話が逸れますが、先ほどお話しした(前編参照)会社の健康診断で、実は乳がんであることが判明したんです。それで健診の先生が「側弯症もすごく曲がっているし、両方とも紹介状を書くから、D病院に行きなさい」と。「どちらから先に治療したらいいでしょう?」と聞いたら「そりゃあ乳がんが先です」と(現在はもう乳がんの治療は終わっていて再発もしていないので大丈夫です)。
早く整形外科のI先生のところにも行かなければと思っていたのですが、まずは乳がんの手術をして、抗がん剤治療が落ち着いてから受診しようと思っていたんです。それで52歳の時にI先生に初めて診てもらったんですね。その時に「歩行困難や腰痛を改善するためには手術しかないです」ということで。「このまま放っておくと完全に歩けなくなるし、年齢的にも体力的にも今のうちに手術をしておいた方が良い」ということでした。
乳がんの手術を経験した後だったこともあって、いろいろ考えたんです。変な話ですが、がんは放っておけば死ねるけど、側弯症では死ねないんですよ。だから放っておいても何もいいことはないなと思いました。人生100年と言われる時代に、60手前でみすみす不自由な生活を求めることもないだろうと。この先、どれくらい人生が長いかわからないけれど不自由なままの生活で大丈夫なのか?って。それで手術しかないと思い決断しました。

手術直後のレントゲン写真
手術直後のレントゲン写真

── 実際に手術を受けられたのが53歳の時。2度に分けて、いずれも長時間の手術だったそうですが。

Oさん:先生には「手術中にはどなたかご家族の方が立ち合うようにしてください。何かあったときに家族に判断をしてもらわなければいけないので」と言われて、やはりリスクを伴う手術なんだなと感じましたね。実際の手術は1回目が5時間16分、2回目が4時間3分だったと聞きました。1回目の時は術後にもすぐ動けたのですが、2回目は本当にこんな痛みはこれまで経験したことがないというくらい激しい痛みが続きました。寝返りもひとりではうてないので看護師さんの介助が必要な日々。入院中はどうしても痛みが我慢できない時には自分でボタンを押して痛み止めを血管に注入するんですけど、それを何度も押してしまって「使いすぎです」と看護師さんに注意されたことも。その痛みは少しずつ緩和されていくんですが、術後の激烈な痛みから徐々に痛だるい感覚に変わっていって、体に入れた金属が体に馴染んでいく間の痛だるさというか、なんとも言えない感覚がありました。ただ、私は手術を受ける前から病院内で同じ病気の人の話を聞いたり、聞いてもらったりするようにしていたので、そうした人と痛みや気持ちを共有できたのは心強かったですね。

── 退院後は装具を着けての生活だったのですか?

Oさん:はい。半年間は装具装着と運動禁止ということで、装具を外すのは入浴時だけ。入院中も手術後にはすぐ装具を着けられていたので、逆に外すのが怖かったです。自分の姿勢や動きで変に曲げてしまったりしたらどうしようという不安が常にありました。入院中に装具の着け方と外し方を練習するんですけど、それはもう完璧に習得して、毎日慎重に生活していましたね。

── 家族のサポートとしてはどのようなことがありましたか?

Oさん:トイレに手すりをつけてもらえたのはよかったです。入院中に主人に「トイレに手すりつけておいて」とお願いしておいたんです。バスルームにはもともと手すりがついていたので問題なかったんですが、トイレにはなかったんですよね。退院後、つけておいてもらって本当によかったと思いました。今でこそ立ったり座ったりは普通にできますが、その当時はしゃがむ時も何かにつかまらないと怖かったし、立ち上がることもできなかったので助かりました。

── 手術を受けてよかったと実感したのはどんな時でしたか?

Oさん:まず入院中のリハビリでどんどん歩けるようになっていった時ですね。痛みも受け入れながら病院内をつかまり立ちで歩くことから始めるんですけど、その歩き方がだんだんとスムーズになっていった時に「ああ受けてよかったな」と思いました。それと、手術前は10センチも低くなってしまっていた身長が、元に戻ったと実感できた時はとても嬉しかったです。

── 退院後にもリハビリなどは続けていましたか?

Oさん:装具を外してよいと言われた後に、パーソナルトレーニングに通うことにしました。やはり今後も背中に筋肉をつけたほうがいいということはI先生からも言われていたので。パーソナルトレーナーの先生に月に2回、1時間ほどの指導を受けていました。1年くらい続けましたね。そのおかげで股関節がしっかり開くようになったし、しゃがんだり立ち上がったりも自力でできるようになりました。プロの指導なので安心して取り組めましたね。現在は、側弯症をまったく意識することがなくなったというわけではないですが、特に不自由なく生活を送れています。ただ日頃から人にぶつからないようにとか、階段で転ばないようにというのは気をつけています。実は術後10ヶ月くらいの時に職場で転んでしまったんです。その時はすごく焦って、翌日会社を休んですぐD病院にかけ込みました。レントゲンを撮ってもらって、幸い何事もなかったのでよかったのですが。

── 最後に、側弯症の手術をためらっている人、悩んでいる人に向けてアドバイスをいただけますか?

Oさん:「手術を受けた方がいいですよ」と言いたいところですが、こればかりはその人の年齢や人生設計、症状にもよるので一概には言えないですよね。手術をすれば動き方にも制限が出るのでできないスポーツも増えてきますから。若いうちは特に、いろんなことができる年齢なのに諦めなければいけないことも出てきます。もし先延ばしにできる症状なのであれば、そんなに焦って手術をすることもないのではないかと思ったり。逆に私の場合は、背骨の角度が60度まで進んでしまってからの手術だったので、完璧にまっすぐには戻らなかったんですよ。もしその直前の「今ならまっすぐになる」というタイミングなのであれば、年齢に関係なく迷わず手術をしたほうがいいと背中を押したいです。ただ手術を受けた後の生活に制限が出るし手術にはリスクがあるので、もし満足な結果を得られなかったとしても、それを受け止められるくらいの覚悟は必要かもしれません。要はその後の人生をどう生きたいか、ということが重要だと思います。私自身は若い頃にもっと積極的に診療を受けておけばよかったと後悔しました。側弯の治療のことを知ってて受けないのと、知らないまま逃げていて過ごすのでは雲泥の差があると思うので。でも50代になってからでも手術を受けられて、日常生活を取り戻せたことを、今はとてもありがたく感じています。

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