患者様インタビュー
Vol.2手術後のスポーツ活動復帰|患者様のインタビュー 第2回(全2回)2021.04
「側弯症」の診断は多くの場合、本人に何の自覚症状もなく、心当たりもないまま下されます。側弯の大きさや進行のスピードには個人差がありますが、進行のスピードが早い場合には、予想よりも早く「手術」という選択肢をとらざるを得ない場合もあります。
脊柱変形を根本的に治すための手術は、その後のリハビリ期間も含め、患者にとっては心身ともに大きな負担にも。しかし、その手術を乗り越えて得られる安心感は大きいこともあります。今回は、中学2年の時に特発性側弯症の手術を受け、術後8年が経過した現在も、何の不安もなく生活を続けている女性(Iさん・仮名 取材当時22歳)のエピソードを紹介します。
全2回でお届けするインタビュー、後編では手術後の生活について詳細に話をお聞きしました。手術前からレギュラーとして活躍していたバレー部への復帰や、現在に至るまで、術後の経過をIさん(仮名、取材当時22歳)から、患者さんの目線で語ってもらっています。
側弯症とバレーボール
── 手術を受けるという選択は、Iさんにとってはバレー部の大会出場をあきらめるという決断でもあったわけですが、手術後は部活動に復帰されたのですか?
Iさん:リハビリを続けて、思った以上に短期間で自分の身体が動くようになったこともあって、もしかしたら元のようにまたバレーができるかもしれない、間に合うなら試合にも出たいという欲が出てきました。とは言え、3ヶ月は激しい運動はできないですし、すぐに元どおりになるとは自分でも考えていなかったので、まずは部活に顔を出して見学をするところからスタートしました。期間をおいてから、最初に始めたのはランニングでした。少しずつ長く走るようにして、1時間走れるようになったり、体力が少し戻ってくるのを実感して、「あ、これはいける」と。ただ、最初はやはりサーブを打つのもきつかったんです。相手コートにも入らない。やはり手術後に休んでいる間、一気に体力が落ちたんですね。筋力も落ちて急激に体重が減って、ジャンプ力も持久力も元に戻らない、以前は普通にできていたことができないというのは、なかなかせつないことでした。でもゼロからのスタートだと切り替えて地道に続けて、サーブも入るようになり、時間をかけて試合に復帰するくらいにまで回復しました。
── それは部活の仲間もうれしかったでしょうね。
Iさん:私が手術をすることになった時、もう私のことは、今までのようにチームの戦力として頼っていい存在ではなくなったと、みんな思ったはずです。その時点で私はレギュラーのユニフォームを一度、部に返しました。もう二度とこれを着ることはできないと。でも、試合に出られるくらいにまで回復した時、そのユニフォームをまた私に返してくれたんです。その時にみんながすごく泣いていて。「待っていたよ」っていうみんなの思いが伝わって、とてもあたたかい気持ちになりました。
── 最初は手術に前向きではなかったIさんですが、結果的に手術を受けて良かったと思えますか?
Iさん:ほんとにそう思います。もっと早くに手術すればよかったなと、今は思います(笑)。もう装具も着けなくてよいと言われた時は、「ほんとにいいの?」って思いましたし、実際に手術後は一度も着けずに生活しています。服装など、そこまで見た目を気にしていたわけではないんですが、洋服を着た時にもシルエットに違和感がないのもうれしいですね。日常生活が本当に身軽で楽になりました。寝る時も、ああ、布団ってこんなに柔らかで、ふかふかだったのかと実感しました(笑)。
── その後、高校に進学されてからもバレーボールは続けましたか?
Iさん:はい。高校に入学してからはもう、側弯症とは縁のない生活と思えるほど、自由に部活を楽しんでいました。側弯症のことも特に誰かに説明する必要もないくらい。今は大学に入って、バレーボールは趣味として時々楽しんでいます。日常生活で側弯症のことを思い出すことはほとんどないですし、まったく意識せずに生活ができています。時々、背中の手術のあとを見た友人に「その傷どうしたの?」と聞かれることはありますが、その時に少し説明する程度で、痛みなどによって自覚することはありません。ただ、冬になって重い荷物を持つ時などは、ごくまれに、痛みというよりも違和感を覚えることはあります。でも、制限されている動きはまったくないですし、手術前より快適に過ごせているのは間違いありません。意識して気をつけているのは、誤って転倒などしてしまう際に、背中を強く打たないよう気をつけるということくらいですね。
── 現在も定期的な検診は受けていますか? 受診の間隔はどれくらいですか?
Iさん:手術して退院してからは、まず手術後1ヶ月目に受診しました。手術後3ヶ月の検診が済んだ後は、6ヶ月、9ヶ月、1年、1年6ヶ月と定期的に診てもらって、その後は年に1度くらいの間隔で。現在、手術してから8年が経過していますが、1年に1度、手術を受けた病院で検診を受けています。その後の経過も特に問題はなく、将来への不安もなく過ごせています。ただ、今後は、手術したところとは別のところで問題が出てくる場合もあるとのことで、これからも、1年に1度の受診は欠かさないようにしようと思っています。
── 今振り返ってみて、中学2年の時に思い切って「手術」を決断したことについて、どう感じていますか?
Iさん:側弯症については、今は心から「いい思い出」と言うことができます。それもすべて、今、楽しく不自由なく生活ができているからこそです。もし、中学生の時、私の背骨があれほど弯曲することなく──例えば20〜30度で止まっていたとしたら私は手術を受けていなかったでしょうし、その結果、装具治療の期間は長引いたかもしれません。角度が急に悪化したことで手術を決断したわけですが、そのおかげで、今はまっすぐな背骨にしてもらえました。あの時、迷いもありましたが、手術を受けるという決断はほんとに正しかったと思います。主治医の先生が、私のバレーボールへの熱意を理解してくださっていて、それを踏まえた上で、あの時「手術しましょう」と言ってくれたことや、母親がその決断を後押ししてくれたことも、振り返るととてもありがたいことですね。いろいろな人に支えられて、今こうして健康に過ごせていることに感謝しています。